みなさんが使っている通貨は、何ですか?

みなさんが使っている通貨は、何ですか?


この問い、突然聞かれたら、ちょっと面食らうかもしれません。

ん? 

日本の通貨なら、円でしょ?

他になんかあるの? 

ドルとか?

聞かれた意味を確認したくなるくらい当然のことです。

私は、広島県東部の山あいにある神石高原町で農業を個人で営んでいます。もともと福山市の出身で、現在は福山市と神石高原町の2拠点で生活をしています。
主に栽培しているのはアスパラ、ぶどう、米です。
市場出荷、道の駅やスーパーへの出荷、個人への直接発送などで販売をしていますが、大学で非常勤講師をしたり、編集業務を外部委託で受けたりなどの仕事もしています。
そして、これまで、いろいろなものを現地通貨で得てきました。

そんな私も、もちろん収入の大半は日本円で受け取っていますし、様々な支払いは日本円で行っています。
それに加えて、「私の現地通貨」があります。

それは、私が栽培しているアスパラです。

そして、この現地通貨を使って得ているのは・・・。

例えば、はちみつ(日本ミツバチ)です。
いちばん定期的に交換しているかもしれません。

このことは、はちみつの生産者の山本さんがブログにしてくださっています。

現地通貨ライフを愉しむ 神石高原の常識、リアル物々交換 2020.4.30

ほかにも、

  • 入浴券
    近くにある温浴施設では、地元の野菜を持っていくと、現金ではなく、無料入浴券をくれます。
  • ハーブ製品
    南国の薬草園とは、私が購入した商品とアスパラを同額になるように調整して発送し合いました。
  • スパイス
    地方ではなかなか手に入りにくいスパイスを東京の友人に買って送ってもらい、その対価としてアスパラを送ります。
  • 柑橘類
    瀬戸内の柑橘を冬に分けてもらい、春になったらアスパラを送ります。

そのほか、醤油、ジャムなど、改めて考えてみるとかなり色々なものを交換してきました。

ビニールハウスの手入れ

要するに物々交換ですが、モノだけでなく、仕事上のアドバイスや畑での労働力などとも交換しています。(労働力については、世の中的にはボランティアとか、援農と呼ぶのかもしれませんが……。)

最近は特に、様子を見ながら、いろいろな人に持ちかけてきました。もうそれが定番になっている人もいます。

とはいえ、誰にでも言えるものではなく、やり取りをしたことのある人にしか持ちかけられません。そして、やはりどこか後ろめたさがあります。
お金ないの?そう思われるのではないかという不安もあります。
(まあ、確かにお金はありませんが)

それでも、物々交換を模索しているのは、貨幣しか交換できるモノを持たない自分が、どれだけ何もできないかを、国全体が経済危機に陥った異国での生活で経験したからかもしれません。
どれだけお金を持っていようと、必要なモノ自体がなければ、ただの紙切れです。パン一つ買えませんでした。
貨幣経済がどれほど砂上の楼閣なのかを思い知らされました。

もちろん、だからと言って、貨幣経済から逃れて生きていくわけにはいかないので、日々の生活費としての日本銀行券は否定しませんし、できません。現実的な話として、物々交換の基準としてお互い販売した時の価格を基に換算したりもしています。その意味では、日本円は基準通貨としての役割も果たしています。

実際のところ、お金をわざわざ介さなくても、直接、モノのやり取りで身の回りの経済はある程度成り立っていくのではないかと思います。

そして、その方が楽しさがついてくるのです。

送った現地通貨が何に化けて返ってくるのか、ワクワクします。

いただいたはちみつの説明を聞き、お渡しするアスパラの説明をするのも楽しい。
これは、お金でのやり取りではないプラスアルファのお楽しみです。
だって、通貨の説明なんて必要ないですよね。

そして、季節によってはシャインマスカットも通貨になります。できることなら、いずれはオリジナルワインもそうしたいと目論んでいます。

ここまでのお話で、
いやそれ、田舎だからできるんでしょ、って思いませんでしたか? 

もちろん、恵まれた資源があり、何でもが通貨になり得るのは田舎です。
でもそれは、形になっていてわかりやすいモノが多いだけで、実は都会にもたくさんありますよ。というかそれぞれが持っているんだと思います。

例えば、東京にいる頃、当時の本業を活かして、編集業務をお手伝いし、その見返りをその方の本業であるマッサージでお願いしたことがあります。
(当時は副業にあたるので、そのような交渉をしたのですが…。)

でもこれって、昔から当たり前にやってきていることでもありますよね。
何かを手伝ってもらったら、食事を提供する、お酒を持っていく。
何かいただけば、お返しをする。

それが都会ではだんだんと減って、お金に置き換わっているのかもしれませんが、田舎はそれがまだ残っている。下手にお金を挟むと、怒られたりすることもある。だから、自分が作ったものや自分ができることと交換することも受け入れやすいのかもしれません。

福山市が都会と田舎のどちらにあたるかわかりませんが、神石高原町だけではなく、福山市内でも私の周辺では残っています。
そして実際の交換相手は神石高原町内ではない場合(東京含む)の方が多いです。

みなさんも、自分の現地通貨、探してみませんか?

ライター:藤井晶子/一般社団法人Weave 理事