せとうちMeetup 人という里山資本 里山資本ラボ@神石高原(Vol.3) 開催レポート

せとうちMeetup 人という里山資本 里山資本ラボ@神石高原(Vol.3) 開催レポート


 2021年4月17日(土)14時より、「せとうちMeet up 「人」という里山資本 里山資本ラボ@神石高原Vol.3」を開催しました。広島県東部の神石高原町で生活を楽しむ人の集まり「神石高原楽人の会」の活動の場を訪問して交流するオンラインツーリズムイベント。

最終回となる今回のホストは、自動車の整備・販売業を営む山本自動車工業株式会社代表取締役社長の山本宰士さんです。
地方では移動インフラとして欠かせない自動車を取り扱う家業の経営の中で、様々な知識を学び、それを実践して成果を出しておられます。
また、地域の環境整備の中での気づきを基に、養蜂や景観植物の管理にも取り組み、本業との関連をきっかけに、地域の関係者と連携した取組もされています。

「地域で生活している以上、義務的にやらなければならないことが生じる」一方、「自分のやりたいことをやるのが大事」と話す山本さんの日々の取組を聞きながら、改めて、会社等の所属組織だけでなく、地域や地元への責任をどのように果たしていくのかを考えさせられるセッションとなりました。

イントロダクション、チェックイン

まずは、参加者の自己紹介から。今回も様々な地域や分野の方々、10数名の御参加をいただきました。
今回は、神石高原町の山本自動車工業のショールームの中継からスタート。福山駅前のOruとも繋ぎ、簡単な趣旨説明と神石高原町の概要説明。

〇神石高原町の概要
神石高原町は、人口8,670人 (2021年3月)。広島県の東部に位置。中国山地が広島県東部で南に張り出した高原地形の中に位置しており、標高は400~500mとなっている。備後の中心都市である福山市までの距離は約30km。平成16年11月5日、油木町、神石町、豊松村、三和町の4町村が合併して「神石高原町」が誕生した。トマトやぶどうなどの青果、キノコ、神石牛といった素材そのものから加工食品まで多くの名産品がある。

山本さんの本業(山本自動車工業株式会社)の御紹介

・どこにでもある普通の自動車の販売・整備会社。だからこそ、他との違いをどこで出すか、生き残るためには工夫が必要と考えている。車は他店でも買えるし、車検もオイル交換もどこの自動車会社でもできる。そんな中で、「うちに来てもらう理由は何か」ということをよく考える。

・従業員は7名。若手が2名入ってきてくれてうれしい。従業員がしっかり仕事をしてくれているので、今は、私自身が直接、自動車関連の仕事をすることはほぼなくなった。

・もともとは自動車会社ではなく、父親が水道工事の会社として創業。私は2代目。時代のモータリゼーションの流れを受けて、1970年代に自動車の仕事も始めた。自動車、水道工事、農業機械の事業をやっていた。農業機械の事業は、そもそも市場の規模が小さく、今はやっていない。

・仕事の核となる部分、例えば、技術だったり、商品知識だったりといったことは、できて当たり前。当たり前のことを徹底して、お客さんに納得してもらいたい。例えば、見積をきちんと出して、費用や納期が明確に分かるということは当たり前のことだが、地域や業界によっては結構ルーズになったりすることがある。接客・応対をしっかりしたことをやろうと思えば金を掛けずにできる。違いを出すなら、こういったところだと考えていて、当たり前のことをしっかりやって、お客さんの納得感を得る。事前期待を下回るようではNG。そうしたことが顧客満足に繋がり、その積み重ねが、うちの社員の仕事に対するプライドのようなものになってきている。

・例えば、接客の話でいえば、入口付近は登り傾斜になっているので、曇りの日だとお客さんの車が入ってきたときに、フロントガラスに雲が映り乗車している人の顔が見えない。顔が見えないと、誰が来たのか、店側の社員の顔も一瞬くもった表情になってしまい、印象が良くない。だから、ガラスに映る雲をみて笑いなさいという指導をしている。客が降りてから笑顔では遅いと指導している。出迎えも、見送りも、いくらやっても費用掛からないし、すぐにできる。すぐできることを徹底的にやる。

〇参加者の声
・UX経営というか、UX営業というか。顧客中心に営業体験のストーリーを描いて、それをうまく行動に結びつけてますね。

自動車整備場へ

続いて、自動車整備場へ。山本自動車工業の価値の源泉を拝見しました。

・自動車整備業では、あまりやっていないが、うちでは物的環境整備をやっている。数ある取組の例として、一つは、定品、定位、定量(決められたものを、決められた位置に、決められた数だけ配置する(決められた時に、が加わることも))ということをやっている。
昨年から、外部の指導コンサルさんに来てもらって、社員を指導してもらっている。来週、この環境整備の視察ツアーがあり、ツアー先が当社ということで、全国から視察に来る予定。

・毎日やっている清掃だが、その日に決められたところ以外は掃除をしてはいけないことにしている。例えば、その日は、作業台の掃除、ガス溶接機器の掃除とか、15分間決められたところを掃除する。作業台の掃除なら5分でおわるが、残り10分で、下側とか裏側とか、普段は掃除しないところを掃除していろんな気付きを得てもらう。掃除をしやすくしておくことも清潔を保つ工夫。社員が自分でやってみて、自分なりに工夫する楽しみを見つけてほしいと考えている。

・オイル交換について、リフトアップされた車の真下から説明。オイル交換には上抜きと下抜きがあり、うちでは、下抜きを推奨している。下抜きは、リフトアップに時間がかかったり手間多いが、併せて車の下回りも点検できるというメリットがある。ハンダ漏れがないか、ゴムが劣化してないかとかいろんなところが見られて丁寧に対応できる。

〇参加者の声
・誰にでもできることを、誰にもできないくらい徹底的にやりぬいている。

・企業姿勢やセンスは、こういうディティールにこそ宿り、それが積み重なると企業姿勢がひと目で分かるようになるし、直感的に「ここに頼めば安心」などの感覚に結びつきます。結果的に、自分たちの作業効率も上がっていくでしょうね。

・この説明を聞いただけで、ここで自分の車のメンテナンスをしてほしいと思う。

事務所へ移動

続いて、事務所へ。ここでも、様々な工夫が見られます。

・事務作業の中で、物が探す時間がとても長い。1年間で積算すると、1か月分くらい物を探すことに時間を掛けている。

・机の引き出しを無くしてしまった。大体、ろくなものが入っていない(笑)。ホチキスが6つくらいあったりとか。文具を視える化するために、頻繁に使うものは机の上に置き場所を確保し、そうでないものは共有棚に置いている。みんなで工夫をして、作業の質を高めている。

・取組が社員に浸透していったのが、うれしい。とても楽になった。昔は一人でしていたのが、社員がしてくれるようになっている。

・社員の工夫で、これいいなーと思ったもの。一つは、よく使う電話帳に手作りタグをつけて、どこにあるか一目でわかるようにしている。あとは、棚やラックの一番下の段は使いにくくて活用されない死んだ場所になってしまうことが多いので、棚やラックの角度を斜め30度にすることで使いやすくなり、場所が活かされるといったもの。

〇人材確保、奨学金制度のこと

・奨学金制度は、まずは自分の会社のために必要だということで始めた。

・今、若手社員が働いてくれている。東広島出身で、地元出身ではないが、ここに就職している。新卒採用で奨学金制度を設けており、彼はそれを使って入社してくれた。http://www.ltsy.co.jp/scholarship/index.html

・自動車整備士になるための専門学校の学費を支援する制度として2016年から始めた。今後も継続的に利用してもらえるように学校側へのアプローチを工夫していこうと考えている。

・Courseという配布誌を出版した。奨学金の制度を自分の会社で実施するのに、いろいろと調べて回っているときに、この雑誌に興味を持ち、関係者に話を聞きに行って、新規事業として取り組んだ。高校生の就職では、大学生のように就職活動はなく、限られた選択肢の中から就職先を選んでいるのが現実。地元の高校生に、将来働くかもしれない地元企業のことを事前に少しでも知っておいてほしい。

Courseの事業をやってみて、採用強者と採用弱者ははっきり分かれていることが分かった。その中で、採用に困っているところは、ほかと同じ対策をやろうとしている。なぜ、みんなと同じ土俵でやろうとするのか。私は、みんながやって上手くいかない方法ではなくて、他がやらない方法にチャレンジしてみる。

フリーダイアログ

問:ものすごく経営にコミットされているが、そんな方が、どうして養蜂をされたり、楽人の会の幹事もやられているなぜ?

答:田舎では、個人が所有している土地が多い。その広大な敷地を自分で管理しないといけない。農地は手入れがされないと荒れて大変なことになる。ただの耕作放棄地、藪になるだけ。
自分の家の前の土地はレンゲを植えていて手入れをしているから、きれいな景観だが、管理しているからこんなにきれいになる。田舎は管理が大変。人間の区画と動物の区画を分けるためにも、管理をしておかないといけない。放っておいたら里山がただの山になる。山と里山と里、自分たちが管理すべきところをきれいにする必要がある。
養蜂は、最初から蜂を買おうとしていたわけではなくて、凝り性なので、やり始めたら、どんどんはまってしまった。休耕田の管理をしていて、刈るだけの草刈に不毛さを感じた。そこで、景観作物のことを知り、レンゲを植えてみて、地域の人をびっくりさせてやろうと思って管理を始めた。それで、レンゲでハチミツを連想して、自分で調べて日本ミツバチを飼ってみようということになった。自動車整備場の向かいに日本ミツバチ研究所があり、そこの東さん(昨年夏のMeetupのホスト)と一気に仲良くなった。

問:最近の若者の傾向は、都市部での就職にこだわっていない。都市部の学校に奨学金制度をアピールできるようにしては?。そのあたりのアプローチは?。

答:そのあたりはこれからの話になる。突拍子のない話に聞こえるかもしれないが、正直、それくらいしないと新卒は来ない。
世の中には、志望者が列をなしてくる会社もある。そうなりたいが、いきなりは無理。今は、多少は自信をもって若者に来いよって言える会社に近づいたと思っている。それで奨学金制度にチャレンジしてみようと思った。

問:いろいろな取組を始めて、それをとことんまでやり切っている。そのエネルギーの源泉は?。

答:経営者なので、いい会社にしたいと思っている。自分は争うのが苦手、競争が苦手。お客さんが困るような泥仕合はしたくない。ライバルと競争しなくてもよいようにする方法を考えている。奨学金の話や、ホテルに負けないくらいトイレをきれいにしたりとか。普通は、こんなところに金を掛けないだろうというところに金をかけている。
極論を言うと、営業しなくても客が来る店舗にしたい。サービスの質や接客を重視した私のやり方は、成果が出るまでにはしばらく時間がかかった。普通の車の売り方が分かっている人にとって、私がしていることは、とてもめんどくさいこと。従来の営業重視の事業所は、私の土俵には絶対上がって来ないし、そこまではしない。だから、私はそこをする。

問:普通の会社は営業計画や事業計画が決められていて,それに沿ってノルマが設定される。社員さん向けに何らかの目標指標のようなものを示しているのですか。

答:会社としての全体目標はあるが、うちでは、あまり個々の社員に仕事を抱え込ませないように気を付けている。仕事の仕組みとして、ルーチンワークのスケジュール表をデジタルで共有している。業務の進捗が情報共有できるし、担当者一人ではできないときは他の人が応援に入る。工夫すると社員のうごきがよくなる。この取組で格段に動きが良くなった社員がいた。遅延があるとアラートが出て他の社員がフォローに入り遅延を回復する。仕事が遅れると逆に担当者本人がしんどくなるので、いい意味で逃げ場をなくしてやっている。自主性に任せるだけではだめで、やるべきことができるようになるまでは、日々、関わってやらないといけない。仕事の基本は、身につくまで「やらせる」ことも大事。

問:山本さんが、地元に残って事業を続けてきて、自分のやりたいことをやっていった結果、今では、その取組が地域に広がりを見せている。どういった心境の変化があり、自分のやりたいことがどう地域を支える取組に化けていったのか。

答:数年前に、自分はやりたいことだけやっていこうと決意したことがある。ただ、先ほども話したように、経営者として、地域の一員として、義務的にやらなければならないこともある。やりたいことの中で義務的なこともやるのか、義務的なことの中でやりたいことをやっていくのか、迷いもあるし、考えて続けていることでもある。

〇山本さんより
中学校の職場体験に協力しているのだが、その最終日に中学生にここで話を聞くと、高校・大学に行って、最終的に福山や府中に住むと答える。
なぜか尋ねると、わくわくするお店が神石高原にないからだと答えていた。
店としてそこに行きたいと感じさせるものがないと、店のとしての存在価値がないと思っている。田舎は選ぶほど他に店がないから、嫌々そこで買うみたいなことは悪でしかないと思う。あの店に行きたいという店でないと価値がないし、社員の存在価値もないよという話を社員としている。どこでも手に入る商品やサービスのために、どうやってうちに来てもらえるようにするか。魅力的な店があれば、あの店があるからあの町がいいとか言ってもらえるようになると、町の発展にもつながる。若い人が神石高原に魅力を感じ居続けてくれることにもつながる。

今の市場は規模的な伸びがないので、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)でいくと衰退局面の「負け犬」市場になると考えている。そこで単純に競争してもしょうがない。戦略的な自由度が少ない中でどうやっていくか。競合とは異なる視点で、うちのサービスの提供価値を高めている。接客や見積・納期の正確さ、品質改善とか。今の路線で上手くやっていけている。
このせとうちMeetupの1回目で登場したナオライさんのような姿勢のものづくりがいいなと感じている。

〇参加者の声
・山本さんと知り合って3、4年経つが、ハチミツの営業はあるが、車の営業はされたことがない(笑)。

・私も売り込むという営業が苦手。
営業が嫌いでしたが、そうではないというスタイルもあるなと思い、相手のことを考えて支援したいという思いで活動していました。社長の取り組む姿勢が素晴らしいです!

・地域、地元への責任、という言葉にぐっと来ました。なんだかんだで、地元の子供達に、こういう地元の経営者の姿を見せるのが、一番大きなことではないでしょうか。

・私も人と競争するのは嫌いです。競争ではなく、切磋琢磨はあっていいかな、創意工夫とか。

・物を持たないからこそ、人が、人財がより大切になるのでしょうね。

クロージング:参加者の方々から

・はじめはモーレツ社長と思っていたのですが、そのベースが「競争したくないから」というのが印象に残った。そのために面倒なことをやるというのが目からうろこでした。人がやらないことをやるという路線で,遠回りに見えるような面倒なこともやる。もっと話を聞きたい。本など書かれたら読みたいなと思いました。

・整備場を見て、きれいに整えられていて、こういうところに関わってもらえると車も長持ちする。

・整備場内が整理されていてきれいという印象で驚いた。ここなら働きたいと思うと感じた。社員が自律的に業務改善のプロセスを回している。なおざりにする人も多いが、それを未然に防いで、方向付けされているのがすごいと思った。参考にしたい。

・私も,事前に送られた地域を知る品で、なぜ、はちみつと会社紹介の本?という疑問が明らかになりました。ハチミツもクリームのようでとても美味しく、今朝ヨーグルトと一緒にいただきました。そして、何より地域や会社、いろんなことに思いを持って真摯に取り組まれている姿に感動しました。またお話し伺いたいです。ありがとうございました。

〇最後に山本さんより一言
 最後に,今回のMeetup全3回に撮影班・ホストとして参加していただき,フットワークが軽く,頼りになる山本さんからも一言いただきました。
・田舎の暮らしも都会の暮らしも,良い面,悪い面それぞれあると思う。エゴにならないようにしないといけないが,どこにいても自分のやりたいことをやっていくということが大事だと考えている。
・神石高原で一番有名な会社になると年初にいっている(笑)。自慢の社員がいるので、上手にやってくれると思う。
・社員は私の宝物です。

あとがき

山本さんの本業の取組について、整備場内の作業環境整備の徹底ぶりに始まり、自社が顧客や地域に価値提供できる要素は何かを考え抜き、競合と重複しない自社の提供価値を設定し,それを社員に浸透させ、仕事の進め方や顧客対応に反映させていく、そうした取組のベースとなる事業戦略の考え方など、御自身が学ばれた経営学の知識を現場で実践されている、その徹底ぶりが印象に残りました。
また,「自分がやりたいことをやっていくのが大事」と話す一方、「経営者として、地域の一員として、義務的にやらなければならないこともある」と話す山本さん。そのバランスを考え続けながら取組を進める中には,悩みを抱えることも多かったと思いますが,やりたいことやりながら会社や地域に対する責任を果たすという姿勢や「社員は私の宝物です」とおっしゃる山本さんの人柄に共感し、多くの人が集まってきて人材の集積ができていく、まさに、3回目のMeetupのテーマである「人という里山資本」の在り様を示していると感じました。